2013年1月23日水曜日

CG業界の転換期:フロンティアの消滅

VFX業界の現状を分析してみよう


あけましておめでとうございます。

去年はびっくりなニュースがたくさんありましたね。
デジタルドメインの破産申請と買収そしてILMのディズニーへの身売り、というビッグなニュースもありました。この激震が走ったときに、みんなが思ったと思います。
あれ?ハリウッドってこんな状態なの?

そもそも我々、日本のCGやさんはハリウッドを目指してやってきたわけです。追いつけ追い越せ、あそこにいけば、すげークオリティの高い仕事もできるし、資金もいっぱい、みんな豊かになるはずだ。
ところが、その目指してたはずの二大巨頭が突然、買収、身売りというニュース。

あれ?
もしかして、この方向、あってる?
ハイエンド、ヤバくないか?
みなさんそんなことを感じたのではないでしょうか?

そこで現状の分析をしてみたいと思います。

ただ、前提として2社の場合はまったくケースが違います。
たとえば、DDはオリジナルアニメーションをやるなかで、資金繰りがショートしたようですし、
ILMの場合はルーカスフィルム自体がディズニーに身売りするという、特殊な状況にあったわけです。
とはいえ、もしもこの業界にうまみがある状態であれば、DDがオリジナルに手をだす必要性もうまれなかったし、ILMだけでも手元に残したりする選択肢もあったんじゃないかと思います。
つまり、この業界は商売としてのうまみをうしなっているのではないでしょうか?

本当にそうなのでしょうか?
そして、なぜでしょうか?

これを理解するには、大きな流れの中で、このニュースをとらえ、世界のVFX産業の大きな流れをみていく必要があると思って、まとめてみました。


技術的な頭打ち状態

エポックメイキング的な2012年、トランスフォーマー、ベンジャミンバトンを経て、最後の砦だった、水と人体のデジタルダブル、晴天下での合成ができるようになりました。
残るCGの砦は人間だけですが、それも映像的に必要かどうかは議論の別れるところです。
CGの俳優を観客が受け入れるのかという問題もありますし、デジタルダブルができるなら、必要なときだけ人間とさしかえることが可能です。
そうすると、映像上大抵のことはできるわけですから。

できないことをやるから高い価格で仕事をうけれるわけです。
あとはこれらの技術が平準化するのを待つだけになったわけです。
そうすると、価格競争になる。


今盛んにいわれているのは、リアルタイムCG、リアルタイム合成でしょうか?
この残された壁は、すくなくとも映像VFX業界において、今までのできないこと、をできるように、とは別のベクトルです。時間をかければできるわけですから。
技術的な優位性は比べられた瞬間に終わりです。
早く、も、より安く、できないことができる、と全く違うベクトルなわけです。

そのできないことをやる、という錦の御旗のもと、じゃぶじゃぶ開発費を注いできたわけです。
しかし、もはや壁はうしなわれました。
技術的フロンティアが消失したといえるでしょう。

パイプラインの変化 レンダーマンからモダンレイトレーサーへ

レンダラーの面からみていきますと、モダンレイトレーサーと今までのPRマンが入れ替わろうとしています。
つまり、これまでの大手の優位性が埋められ、投資が無駄になりつつある。
そこへ、vrayなどの、GIがありシェーダーなどがある程度パッケージ化されたレンダラーを武器に新興のCG会社がせまってくる。
大手が今まで投資したPRマンへの投資額の大きさに動きが取れないまま、距離が詰められていく。

つまり、家電業界におけるテレビと一緒ですね。
開発はほぼ頭打ちになってきた。そこに海外勢が追いかけてくる。倒れる巨人。というわけです。

とはいえ、ガンガン拡大している新興の会社も、同じ条件でスタートして追いかけてくる会社は増え続けるわけなので、放漫経営をさけ、パイプラインを整備し、つぎのワークフローを見極めながら改定していかないと、すぐに足元をすくわれる。
そんな戦国時代に突入しつつあるのです。


質から量 闘争の時代へ

こうして技術的フロンティアが消失し、新興勢力とハリウッド老舗VFXスタジオが素手で殴りあう闘争の時代に突入したわけです。

また、CG、VFXに要請されるニーズも変化してきました。

『なにがなんでも「高品質」がほしい』から、品質は前提として、『大量のボリューム』が求められるようになってきました。
パイレーツオブカリビアン、ロードオブザリング、アバター、トランスフォーマーなどの成功をから、大ボリュームVFX映画が金になることが証明されたからです。

この傾向は近年ますます顕著になってきています。
なぜでしょうか?
それはVFX会社のほうも大量生産に対応できるようになってきたからです。
これには、パイプラインの整備とリニアワークフローが影響しています。
つまり、アーティストの個人的スキルに頼ることが少なくなり、アーティストへの門戸が広く開かれ、大量生産が可能になったのです。
そうして大量生産に成功すると、価格も低下する。
トランスフォーマーなどの巨大バジェットムービーではなくても、全編CGが多用されている映画がふえてきましたよね。
それは、もちろん需要側の理由もありますが、供給側の理由、つまりこうしたパイプラインを維持するために、仕事を受けなければいけないということ、その結果、単価が下がっていること。も関係しているといえます。

そしてこれから、

この大量のカットをさばくため、人の奪い合い、になっています。
しかし大量雇用はしても、すぐに解雇されうる状況です。
われわれはテレビとは違って、一点ものの映像をつくっているわけなので、圧倒的に単価が高いものをつくっています。そうすると、ひとつのプロジェクトを取れるか取れないかで必要となる人数があまりにも違うわけです。大量雇用大量解雇の時代です。
これがVFX業界の現状です。たぶん。
日本でも徐々に始まってきましたね。

それではわれわれ、日本勢はどうしたらいいのか?
まず、一CGマンとして、そして日本の会社として、という二つの面があると思います。

ーCGマンとしては、海外にいきやすくなるというのはあるでしょう。しかし、一般的にはギャラが下がり続ける舞台にあがるんだということは覚悟したほうがいいかと思います。


日本の会社としてどうするか、という点ですが、例えば、新たな技術的フロンティアを探す。あるいは新しいレンダラーやワークフロー、そして、海外の人材を取り込んで世界市場に殴り込みをかける、はたまた、まずは日本市場に集中する。などなどいろんな選択肢があると思います。

僕にも、ひとつ提言があります。
「『Fab』 カンパニーになるか、『Fabless』カンパニーになるか、をきめよう」です。
しかし、これまた長くなるのでそれはまた別の機会にしようと思います。

まあ、でも、

いろいろ考えてても疲れるだけですね。
難しいことは考えず、Sumo Roll でもみてみましょう。



最新話はこちらのユーチューブチャンネルというものでみれます。毎週更新ですので、暇なときにのぞいてみてください。
Sumo Roll youtube channel






2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

通りすがりですみません。

大量生産が可能になりつつあるのは、physically plausible shaderのおかげだと思います。リニア云々はあまり関係ないような気がします。むしろexrでセカンダリまでソースファイルを持つ事で、ストレージの問題もありますしね。

RendermanのユーザーミーティングではPRS 19までの大まかなロードマップが発表されてましたし、18ではPath Tracerも実装されるみたいですので、pixarも頑張ってますよ。

zentoy さんのコメント...

なるほど、Rendermanもばりばりがんばってるんですね!勉強になります。

僕はどうも、physically plausible shaderとリニアワークフローをごっちゃにして話してしまっているようです。
おっしゃるとおりストレージの問題もありますね。コメント、ありがとうございます。